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合失調症の血中バイオマーカーの探索 

 多くの精神科医や研究者の努力により、統合失調症の原因について、様々な仮説が提唱されています。その過程で、統合失調症の中に、原因の異なる、様々な患者群が存在する可能性が示されてきました。こうした流れの中で、一部の統合失調症患者において、血漿中の生体分子 "ペントシジン" が増加していることが報告されました (Arai et al, 2010)。ペントシジンは、特殊な糖代謝物 (反応性カルボニル) とタンパク質が結合し、数カ月かけて構造変化を起こすことで生成されます。

 

 

 

 

 

 

 

がって、この患者群の体内では、反応性カルボニルが多いことが予想されます。 そのため、こうした患者群は"カルボニルストレス性統合失調症" と定義されています。この患者群は、統合失調症の約 2 割を占めています。

 反応性カルボニルは、ペントシジン以外にも様々な生体分子を生成することが知られています。そこで私たちは、反応性カルボニルによって生成される様々な生体分子を定量解析することで、カルボニルストレス性統合失調症の新たなバイオマーカー候補の発見を試みました。初めに、反応性カルボニルとタンパク質が結合した直後の構造でカルボニル基が形成されることに着目し、血漿タンパク質のカルボニル基をラベル化して定量解析しました (ここでは、この値を "カルボニルタンパク質値" と呼びます)。その結果、統合失調症患者の血漿中において、カルボニル化タンパク質値が有意に高いことが明らかになりました (学術論文 1: Koike et al., BBRC, 2015) に、ペントシジンと類似した経路で生成される生体分子 "アルグピリミジン" に着目し、定量解析を行いました。結果として、統合失調症患者血球中の "セレン結合タンパク質 1" に修飾したアルグピリミジン量が高い傾向にありました (学術論文 3: Ishida et al., BBRC, 2017)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

​ には、カルボニル化タンパク質値やアルグピリミジン量が高い一方で、ペントシジン量は通常な患者もいました。このことは、カルボニル化タンパク質値やアルグピリミジン量を測定することで、今まで見逃されてきた、カルボニルストレス性統合失調症患者を見つけられる可能性を示しています。
 その後、反応性カルボニルを増加させた動物モデルにおいて、統合失調症様行動が見られたことが報告され (Toriumi et al., 2021)、反応性カルボニルの増加が統合失調症発症の一因である可能性が示されつつあります。 そして現在、反応性カルボニルを除去する治療法 (ピリドキサミンの大量投与) の治験が行われており、一部の患者で効果が見られたと報告されています (Itokawa et al., 2018)。将来的に、今回発見したバイオマーカー候補を測定し、カルボニルストレス性統合失調症の診断に役立て、早期に反応性カルボニルを除去する、といった治療戦略が可能かもしれません。しかし、私たちの研究は小規模な患者群を対象としており、実臨床で有用かを確実に明らかにするためには、より大規模な検討を行う必要があると考えております。
【引用文献】 
1. Arai,
M. et al. Enhanced carbonyl stress in a subpopulation of schizophrenia. Arch. Gen. Psychiatry 67, 589–597 (2010). [Pubmed]

2.Toriumi, K. et al. Combined glyoxalase 1 dysfunction and vitamin B6 deficiency in a schizophrenia model system causes mitochondrial dysfunction in the prefrontal cortex. Redox Biol 45, 102057 (2021). [Pubmed]

3. Itokawa, M. et al. Pyridoxamine: A novel treatment for schizophrenia with enhanced carbonyl stress. Psychiatry Clin. Neurosci. 72, 35–44 (2018) [Pubmed]

アルグピリミジンとカルボニル基.png
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